※当連載は2019年にデンマークで働く3名に実施したインタビューを元に書き起こしています。

「世界一幸せな国」として知られる北欧の小国・デンマーク。男女平等で、ワークライフバランスがとれた理想的な社会として謳われるデンマークで実際に働く人々はどのような価値観を持ち、どのようにキャリアとライフを両立させているのでしょうか。代表古屋がデンマークを訪れ、3名の方に直接インタビューを行いました。
 
一人一人のキャリア・ヒストリーを深く辿る事で見えてきたのは、デンマーク流の働き方が日本とは程遠いものではなく、日本社会の延長線上にあり得る未来であるということでした。日本のアフターコロナ時代を幸せに生きる上でも参考となる考え方を「幸せの国・デンマークで働く男女3名のリアルに学ぶ、アフターコロナを幸せに生きるためのヒント」をテーマに連載でご紹介します。

お二人目は、デンマークで建築エンジニアとして活躍されている2児の父、蒔田智則さん。世界の第一線で戦う一方、ご家族との時間を第一に考えたライフスタイルを確立されています。デンマークはなぜ子育てがしやすい国と言われるのでしょうか。日本人との意識の違いは何なのでしょうか。日本で生まれ育ち、デンマークに移住された日本人父・蒔田さんに、デンマークにおける子育てとキャリアの両立について、お話を伺いました。

デンマーク人との結婚で「女性は三歩下がるもの」という概念が覆された

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ーー現在デンマークで2人のお子様を育てられているそうですが、子育てについてどう感じられていますか?

「子育ては楽しいですよ。自分の人生をもう一回やり直している感じです。子育てをしながら自分が昔父親に言われた事を思い返したりしますし、自分の深みになります。まだ2人の子供を育て終わった訳ではありませんが、子育てをやってみて良かったと感じています。」

ーー日本の男性には、子育てに関するロールモデルが少ないと言われています。蒔田さんはもともと子育てに積極的に参加したいと思われていたのでしょうか?

「僕も日本で生まれ育ったので、男はずっと働くものだと思っていました。母は専業主婦で、父は週末だけ会えるような存在でしたし、自分もそうなるのかな、くらいに思っていました。デンマーク人と結婚したので、僕の想定は崩されてしまいましたけど(笑)」

ーー奥様から積極的に家事や子育てをしてほしいと言われたのですか?

「日本には男の人が前を歩いて女の人が三歩下がる考え方がありますよね。その考えは直接言われなくても僕らの意識に染みついていたと思うんです。でもそうじゃない考え方もあるんだと学びました。デンマークの女の人はとても強くて、男女のパワーバランスは50:50か、もしくは少し女の人の方が強めだったりします。僕はこの50:50の考えの方が健康的ですし、お互いにとても良いと思っています。デンマークでは『自分は自分、あなたはあなた』という考えが基礎にあって、お互いに助け合うやり方が一般的です。僕にはもともと日本で染みついていた考えがありましたから『なんでうちの奥さんはあまりやってくれないんだろう』と最初は思う事もありましたが、お互いに足を引っ張りあうのではなく、自分が得意なものと彼女が得意なものを掛け合わせていく方が、お互いやりやすいんだなと感じるようになりました。」

ーー子育てをしていく中で、大変だなぁと思うのはどんなことですか?

「子供の世話をしないといけない事です(笑)。 うちの場合、朝は奥さんが子供を送って、帰りは僕が迎えに行きます。そうすると午後4時から8時くらいまでは家族の時間になるのですが、この時間にとても価値を感じています。僕らは普段デンマークに住んでいるので、僕が日本語を話さないと子供たちは日本語を覚えません。言葉を教えるという意味でも、僕が子供といる時間を一緒に過ごす意味があると思っています。大人になってから日本語を覚えるのは大変ですし、将来デンマーク語・英語・日本語を扱えるようになるのは僕からの良いプレゼントかなって。小さいころから複数言語でものを考えていた方が子供の脳にも良いと言われているんですよ。」

同時に訪れた、異国でのキャリア形成と子育て。

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ーーそもそも、どのような経緯でデンマークに住むことになったのですか?

「僕はイギリスの大学を卒業してしばらくイギリスで働いていたのですが、そこで今の奥さんと出会い、2010年にビザの関係で僕が日本に戻るタイミングで結婚しました。日本に住んでいた頃に奥さんが妊娠し、『言葉の分からないところで子供を産むのは怖い。私はこれまであなたのためにロンドンに行って、東京まで来た。次はあなたが(移住を)考える番ではないか』と言われ、それも確かにそうだな、と。その流れでデンマークに引っ越す事になりました。彼女は既に妊娠していたので、こちらに引っ越して1ヶ月程度ですぐに子供が生まれた感じです。初めてのデンマークで、初めての子供で、マスオさん状態で…最初はすごく大変でしたね。当時はこちらで仕事を探しながら、専業主夫をしていました。」

ーー仕事を辞めて移住されたのですね。デンマークでのキャリアはどう歩まれたのですか?

「長期的な自分のキャリアを考えた時、もう一度学校に戻ってやりなおしたいという想いがあり、33歳でデンマーク工科大学院に入り直す事にしました。幸いデンマーク人と結婚していたので授業料は無料でしたし、国から学生向けの教育補助金ももらえたので、環境としては恵まれていました。『子供もいるのだから、そんなに急いで生きることもない』という周りの声にも支えられました。大学院を卒業してすぐに2人目が生まれたのですが、その時まだ僕は就職活動をしていたんです。デンマークでは就職活動中も国から補助金が出るんですよ!」

ーー現在は2つのお仕事を掛け持ちされていると伺いました。どのように子育てと両立されているのでしょうか?

「今は子育てに時間を費やす必要があるので、僕も奥さんもフルタイムでは仕事をしていません。奥さんは週に30時間、僕は2つの仕事を併せて週25時間働く契約になっています。お給料を少し下げてでも今は仕事をセーブして、子育てが落ち着いた頃にまたフルタイムの仕事に戻れば良いと思っています。デンマークでは、子供ができたら一旦仕事をセーブをして子供との時間を作り、子供の手がかからなくなったらまた一生懸命働くのが一般的です。もちろんやりたい仕事がある時には、『これ僕もやりたいのに、やるほど時間が無いなぁー』って、一生懸命働ける若者に対してジレンマを抱えることもありますよ(笑) 『子供が大きくなったらまたやってやる!』という静かな闘志を燃やしています。」

「こうでなければいけない」なんて誰も考えない

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ーー日本では子育てのために女性だけが一旦仕事量を減らし、その後もっと働きたいと思っても、自分のスキルやキャリアを生かせるポジションに戻るのが難しいという課題があります。デンマークは子育てとキャリアの両立がしやすい環境なんですね。

「そうですね。デンマークはイギリス・ドイツ・スウェーデンなどの強国に挟まれた人口500万人の小国なので、女性も労働力として参加しないと国が回らないという背景もあります。今まで日本で専業主婦モデルが成り立っていたのは、それでも経済がまわる裕福な国だったと捉えることもできます。でもこれからは子育てが落ち着いた女性もキャリアにきちんと戻れるような仕組みに変えていかないと、立ち行かなくなるのでは無いでしょうか。また日本人は、『こうでなければならない』というモデルを作り、そこから外れるとダメだというレッテルを張りたがる傾向が強いと思います。デンマーク人はおおらかで、そういった現象が起こりません。『こうしたい』という気持ちさえあればそれを受け入れてくれる社会の土壌があります。そうでもしないと、国が回らないからです。」

ーーデンマークに足りないものを挙げるとしたら、何でしょうか?

「あえて言えば、情熱や責任感かもしれません。『いざとなったら社会保障があるから大丈夫』という考えが根底にあるからかもしれませんが、最後まで遂行する忍耐強さという点に関しては、日本人の方が優れています。
逆にデンマーク人は、全体的なバランス力やチームワーク力に優れています。個に焦点が当たる文化と違って、互いを尊敬し、相手とコミュニケーションを取りながらチームで働くのが上手です。学校でも一人でテストを受ける授業はほとんど無く、チームを単位とした教育が行われています。」

ーー最後に、今一番達成したいことは何ですか?

「デンマークは環境先進国と言われています。そこにいると、環境問題に大きな危機感を肌で感じています。SDGsをはじめ、色々な議論がされているのは分かりますが、それだけでは全く足りない。SDGsを達成するのは基本中の基本で、それ以上の事を行動に移していかないと未来はないと思います。幸い人類には多くの優れた技術がもう手元にある。大事なのは、その優れた技術をうまく組み合わせることによって、新たなイノベーションを生み出すこと。コラボレーションによって人類が直面している環境問題を解決していきたいと考えています。」

日本の一般的な家庭で育ち、男性優位の価値観もお持ちだったという蒔田さんですが、自身のキャリアにおける長期的なビジョンを描きつつも、自分と家族が幸福でいられる暮らし方を一番に考え、環境やライフステージの変化に恐れずに対峙されている姿が印象的でした。
「相手は相手。自分は自分」。デンマークに根付くこの考え方は決して相手を突き放すためのものではなく、チームでの相乗効果を得るために必要な、相手への敬意を示す考え方である事が分かります。働き方も、男女のパワーバランスも、自分も相手も犠牲にしないやり方を考えること。自分達で考えて出した答えを、尊重し応援する社会の土壌を作ること。国や文化が異なっても通じる、幸せな暮らしを築く上で大切な考え方のヒントを得た気がしました。

【連載】幸せの国・デンマークで働く男女3名のリアルに学ぶ、アフターコロナを幸せに生きるためのヒント: